【第1話】ユニフォーム制作秘話(4/17)

【第1話】ユニフォーム制作秘話(4/17)

“先駆け”であるサンダースの期待に応え続けるために

サンダースのユニフォームをデザインするに至った経緯を教えてください。

お仕事でご一緒する機会の多い島田ネオンの森山さんが、アリーナ (川崎市とどろきアリーナ)のネオンを制作されており、川崎ブレイブサンダース(以下 サンダース)とつなげていただいたのが始まりです。僕が学生時代バスケをやっていて、バスケが好きだったということから、ちょうどデザイナーを探していたサンダースを紹介していただきました。偶然にも担当の方が、YARのことを知ってくださっていて、ぜひお願いしたいと言っていただけたので、とても嬉しかったです。2020年シーズンから始まり、現在は4シーズン目を一緒に制作しています。

デザインを始める際に、どのような要望がありましたか?

アシックスさんとサンダースでテーマを決めて、こちらに依頼が来るという流れなのですが、今季は“自然を模様にする”という和柄の文化にヒントを得て、『朝霧』で表現してほしいという要望でした。
初めの打ち合わせのときに、山に朝霧がかかっている写真を見せていただき、これをモチーフにしてほしいと言われたときは、かなり難しいテーマだなと思いました(笑)。
しかし、テーマを紐解いていくうちに、霧というのが“形のないもの”や、“薄かったり、濃かったりするもの”という、いくつかキーワードが浮かび上がってきたので、それをイメージしたグラデーションを取り入れたいと考え始めました。ユニフォームの肩やパンツに入っているグラデーションが、きれいな一定なグラデーションではなく、まだらなものになっているのはモチーフが朝霧だからです。

ユニフォームの根底にあるテーマは他にもありますか?

NBAの昔のチームを見てみると、色とリブとロゴだけのような、とてもシンプルな作りをしているんです。そういったクラシックスタイルをデザインのベースとして取り入れたいという要望はずっといただいています。ただ、それはすごく難しいことで、見え方によってはデザインされていないように見えてしまいます。なので、最小限のデザインにおさえつつ洗練させていく、デザインしないカッコ良さというのをとても意識しています。
また、サンダースはB.LEAGUEの中でも、さまざまなことにおいて“先駆け”であることを意識しているため、同じようにデザイン面でも“先駆ける”ことを意識しています。

どういった点で“先駆け”を意識していますか?

ユニフォームのデザインは、ユニフォームの規定上 シビアな決まりがあるため、デザインできる箇所が多くありません。しかし、一度はダメ元でやりたい放題やってみようと思い、最初の頃にそのままチェックに出してみたことがあります。結果は赤字がたくさん入って返ってきました(笑)。そこから調整して、シンプルでも納得のいくデザインに落ち着いたのですが、多くの制限がある中で、どうやって毎年の変化をつけていくかというのは、そのときから今に至るまでもずっと課題だと感じています。
B.LEAGUEがこれからもっと盛り上がることで、少しでもユニフォームのデザインが自由になれば、ファンが見てもっと楽しめるようになる気がしています。その先駆けにサンダースがなれると嬉しいです。

 

実は、今もダメだろうなと思いながら、幅広くさまざまなデザインを提出しています(笑)。それによって、自由度が上がったわけではないですが、自分の中で挑戦していくことで新しいデザインにつながることもあります。現在は4シーズン目を制作していて、そういった挑戦のおかげもあり、毎年変化をつけられていると思っています。

今季のユニフォームデザインについて、一番のこだわりポイントはどこでしょうか?

サンダースは、地域密着やファン(サンダースファミリー)の方を何より大事に考えているので、そういった要素を取り入れたいと考えていました。『朝霧』を表現するにあたっては、ただのグラデーションではなく、まだらなグラデーションにしたということを先ほどお話ししました。それを構成する要素として、大小さまざまなドットを使用しています。その大小さまざまなドットが、サンダースファミリーの一人ひとりを表現しており、それらが重なることで選手の背中を押すというストーリーをデザインしています。

選手のモチベーションを上げ、バスケをする多くの子どもに届けたい

どのような方にユニフォームを着てほしいですか?また、着た人にどのような気持ちになってほしいですか?

バスケに限らず、スポーツを見ているとユニフォームが目につくことは多いと思います。たとえば、チームが強いとか弱いとかに限らず、「あのチームのユニフォームがかっこいい」と話題に上がることもあります。僕はそういった見方をされているということも、ユニフォームをデザインする上で大切にしたいと思っています。
学生が、「あそこの制服がかわいいから、カッコいいから、あの高校へ行きたい」というように、B.LEAGUEを目指す選手が「あそこのユニフォームかっこいいから、あそこのチームに入りたい」と思ってもらいたいです。プレーする選手には、うちのチームはユニフォームにもこだわっていて、かっこいいよねって思ってもらい、シンプルにモチベーションが上がるものであってほしいです。
選手以外でも、バスケをするときにレプリカのユニフォームを着ることがあると思いますが、そういうときに選ばれる一枚であってほしいとも思います。僕も学生の頃にバスケをするときは、NBAの好きなチームのユニフォームや、好きじゃないチームでもカッコいいユニフォームを着ていました。そういうふうに、サンダースのユニフォームを着てプレイする子どもたちが増えればとても嬉しいです。

サンダースファミリーへのメッセージをお願いします。

デザインでできることは、限られてはいますが、それはデザインでしかできないことです。ファンとチームを繋ぐ一つのツールとして、デザインがあってくれたらいいなと思っています。

そして、これからもっとB.LEAGUEが盛り上がったときに、サンダースが先駆けや象徴になれるよう、クリエイティブの面からチームの役に立てればうれしいです。これからも、サンダースのユニフォームデザインをしているということに誇りを持ってデザインしていきます。

 

私にとっての、
川崎ブレイブサンダース

昨年サンダースと一緒にした仕事で、選手の撮影をさせていただいたことがあります。そのとき、テレビで見ていた皆さんに、「ここでこういうポーズをとってほしい」と指示を出させていただき、そのシーンを、フォトグラファーがシャッターを切ってくれていました。それがとてもいい写真だったんです。あらためて今見返しても感慨深いです。バスケも好きで、デザインも好きで、こういう仕事ができているということは、大変ありがたいことだと思っています。

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